7.15 ブルーレイ&DVDリリース!


 SF映画の最もポピュラーなテーマのタイムトラベルには、過去を変えると未来に変化や矛盾が生じるタイムパラドックスが付きものだ。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』から『バタフライ・エフェクト』まで数多くの傑作&異色作がひしめくこのジャンルに、新たな金字塔というべき衝撃作が誕生した。
 奇想に満ちたヴァンパイア映画『デイブレイカー』(09)の気鋭の双子監督、ピーター&マイケル・スピエリッグ兄弟が、イーサン・ホークと再びタッグを組み、ロバート・A・ハインラインによる究極のタイムパラドックス小説「輪廻の蛇」の映画化を実現。携帯型タイムマシンによって時間と場所を自在に瞬間移動できる政府のエージェントが、凶悪な連続爆弾魔を追って命懸けのラスト・ミッションに身を投じる姿を映し出す。1970年のごく平凡な酒場の風景から始まる物語は、中盤にトリッキーな急展開を見せ、約半世紀の時空を小刻みにスリップする壮大なドラマに発展。先読みを一切許さないノワールな映像世界は、登場人物のあまりにも数奇な宿命のミステリーをエモーショナルに解き明かしていく。そして映画史上空前のタイムパラドックスの終着点には、あらゆるスリルや感動を超越した"想像を絶する"真実が待ち受けている!
 リチャード・リンクレイター監督との『ビフォア』シリーズや『6才のボクが、大人になるまで。』などでおなじみのイーサン・ホークにとって、本作は『デイブレイカー』に続くスピエリッグ兄弟との2度目のコンビ作。またジョン&ジェーンという時空のみならず性別さえも超えるひとり2役をやってのけた驚異の新進女優サラ・スヌーク、『オール・ユー・ニード・イズ・キル』『記憶探偵と鍵のかかった少女』の個性派バイプレーヤー、ノア・テイラーも抜群の存在感を放っている。
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   1970年11月6日/ニューヨーク  
 神出鬼没の連続爆弾魔フィズル・ボマーの凶行に市民が恐れおののく大都会。場末のバーに現れた青年ジョン(サラ・スヌーク)は、バーテンダー(イーサン・ホーク)に数奇な身の上話を語りだすーー。女の子<ジェーン>として生まれ、孤児院で育った"彼"は、18歳の時に恋に落ちた流れ者との子を妊娠。しかし、その男はある日"忽然"と姿を消し、赤ん坊も何者かに誘拐されていた。そして、出産時の危機から命を救うため、自分は男になったと話す…。
 青年の長い告白を聞き終えたバーテンダーは、思いもよらないことを切り出した。なぜかバーテンダーは青年がジェーンからジョンに改名したことを知っており、彼が憎む流れ者への復讐のチャンスを与えると言い出す。わけがわからず混乱に陥ったジョンを地下室に導いたバーテンダーは、"時標変界キット"と称する機械を取り出し、ある日時をセットする。「深呼吸して、目を閉じろ」。バーテンダーがそう告げた次の瞬間、ふたりは跡形もなく地下室から消失した。
 1963年4月2日/クリーブランド  
 ふたりが1970年のニューヨークからスリップした先は、かつてジェーンが流れ者と出会った日の大学のキャンパスだった。愕然とするジョンの前で、バーテンダーが驚くべき素性を明かす。何とバーテンダーは未来からやってきた時空警察のエージェントで、 "時標変界キット"とは携帯型のタイムマシンだったのだ。すでにエージェント引退を決意しているバーテンダーは、ジョンに自分の仕事を継ぐことを条件に、帽子とコート、札束、そして復讐のための拳銃を手渡す。
 バーテンダーの提案をすべて受け入れたジョンは、コートの内側に拳銃を忍ばせ、キャンパス内で流れ者を捜し始める。まもなく彼が背後を振り返ると、そこにいたのは7年前の自分自身、すなわちジェーンだった。
   1970年3月2日/ニューヨーク
 バーテンダーには後継者探しのほかに、もうひとつ重大な最後のミッションがあった。それは因縁の宿敵である爆弾魔フィズル・ボマーを、この世から葬ること。予定通り、ジョンをジェーンが流れ者と出会った日に連れてきたバーテンダーは、単独で新たなタイムスリップを敢行し、フィズル・ボマーが現れる犯行現場に向かう。しかしタイムスリップの影響で疲労したバーテンダーは、格闘の末にまたもフィズル・ボマーを取り逃がしてしまう。
 1964年3月2日/クリーブランド  
 ひとときの休息をとったバーテンダーは、とある病院に向かう。そこに現れた時空警察の幹部ロバートソンは、「未来への種はまき損ねるな。頼んだぞ。」と言い残し消える…。新生児室に侵入したバーテンダーは、生まれたての赤ん坊のジェーンを誘拐し、1945年9月13日にタイムスリップし、孤児院の玄関へ運ぶのだった――。
 1963年6月24日/クリーブランド    1985年8月12日/時空警察本部
 バーテンダーに導かれて巡り合ってしまったジョンとジェーンは、情熱的な恋に落ちていた。公園でのデート中、バーテンダーが戻ってきたのに気づき、「すぐ戻る」とジェーンに言い残してその場を離れるジョン。バーテンダーから「これが宿命だ」と告げられたジョンは、愛するジェーンとのつらい別れに胸を締めつけられる。  バーテンダー、ジョン、ジェーンの衝撃的な因果関係が明らかになるなか、未来に戻ったバーテンダーは後継者のジョンを医務室に預けると、引退後の生活を送るため"最後"のタイムスリップに身を投じていく。選んだ目的地は、フィズル・ボマーが大勢の市民を巻き込む史上最悪の爆破事件を実行しようとしている1975年のニューヨークだ。しかしバーテンダーは、まだ自分の本当の宿命を知らなかった。時空を超えた壮大な旅の果てに、彼が突き止めた呪われた真実とは……
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イーサン・ホーク >>>

 >>> Ethan Hawke

1970年11月6日、テキサス州オースティン出身。
キャリアを築き始めたアカデミー賞®受賞作『いまを生きる』(89)以降、20年以上、数々の役を演じ賞賛を浴びる一方で、小説家・脚本家・監督にも挑戦し、多方面で存在感を増してきた。リチャード・リンクレイター監督とは『ニュートン・ボーイズ』(98)、『ウェイキング・ライフ』『テープ』(共に01)、『ファーストフード・ネイション』(06)などで何度もコンビを組む。なかでも有名なのは、ジュリー・デルピーと共演し絶賛された『恋人までの距離(ディスタンス)』(95)とその続編『ビフォア・サンセット』(04)、『ビフォア・ミッドナイト』(13)である。『ビフォア・サンセット』に続き、リンクレイター、デルピーと3人で『ビフォア・ミッドナイト』の脚本を手がけ、アカデミー脚色賞、放送映画批評家協会賞脚色賞、全米映画脚本家組合賞脚色賞、IFPスピリット賞脚本賞の候補となった。他の出演作は『エクスプロラーズ』(85)、『晩秋』(89)、『ホワイトファング』(91)、『生きてこそ』(93)、ベン・スティラー監督作『リアリティ・バイツ』(94)、『ガタカ』(97)、『大いなる遺産』(98)、『ハムレット』(00)、『テイキング・ライブス』(04)、『アサルト13 要塞警察』(05)、『その土曜日、7時58分』(07)、『クロッシング・デイ』(08)、『クロッシング』(09)、『デイブレイカー』(09)、『フッテージ』(12)などがある。2002年には、アントワーン・フークア監督の『トレーニング デイ』(01)でデンゼル・ワシントンと共演し、アカデミー賞®、全米映画俳優組合賞の助演男優賞候補となった。日本では、2002年夏から12年間かけて撮影された話題作『6才のボクが、大人になるまで。』が2014年11月に公開。




サラ・スヌーク >>>

 >>> Sarah Snook

オーストラリアで最も刺激的な女優のひとり。2008年にオーストラリア国立演劇学校(NIDA)を卒業後、映画・舞台・TVなど幅広く活躍。豪ABC放送のTV映画「SISTERS OF WAR」(10)で、11年度TVウィーク・ロギー賞グラハム・ケネディ最優秀新人賞にノミネート、12年度オーストラリア・アカデミー(AACTA)賞TVドラマ部門最優秀主演女優賞を受賞。11年度カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品されたジュリア・リー監督の『スリーピング ビューティー/禁断の悦び』(11/エミリー・ブラウニング共演)に出演。また、オーストラリアのコメディ映画『NOT SUITABLE FOR CHILDREN』(12/ピーター・テンプルマン監督)では、12年度シドニー映画祭でプレミア上映され、オーストラリア映画批評家協会賞最優秀主演女優賞を受賞し、13年度AACTA賞映画部門最優秀主演女優賞にノミネートされた。近作では、『THESE FINAL HOURS』(13)や、ホラー映画『JESSABELLE』(14/ケヴィン・グルタート監督)などがある。




ノア・テイラー >>>

 >>> Noah Taylor

1969年9月4日、イギリス・ロンドン出身。
世界でも有数の監督・俳優たちとタッグを組む名バイプレーヤー。実在の天才ピアニストの半生を描いた『シャイン』(96)でジェフリー・ラッシュと共演し注目を集める。その後、キャメロン・クロウ監督の『あの頃ペニー・レインと』(00)、『トゥームレイダー』(01)と続けて話題作に出演。他『アドルフの画集』(02)、『トゥームレイダー2』(03)、ティム・バートン監督『チャーリーとチョコレート工場』(05)、テレンス・マリック監督『ニュー・ワールド』(05)など。また、リチャード・アイオアディ監督とはジッフォーニ映画祭最優秀作品賞(金のグリフォン賞)受賞作『サブマリン』(10・未)と『嗤う分身』(13)で2度仕事をしている。その演技には批評家や大衆からも定評があり、国際的にも認められ多数の賞受賞歴およびノミネート歴をもつ、期待される俳優の一人。

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  ピーター・スピエリッグ(監督/脚本/音楽/製作) >>>

  >>> Peter Spierig (Director&Writer&Music&Producer)

マイケル・スピエリッグ(監督/脚本/製作) >>> 

>>> Michael Spierig (Director&Writer&Producer) 

1976年4月29日生まれの一卵性双生児の兄弟。"スピエリッグ兄弟"として知られる、ドイツ生まれのオーストラリア人監督・プロデューサー・脚本家。高校・大学時代を通して、二人は短編映画を撮り続け、その多くの作品が地元の映画祭や映画賞の授賞式で取り上げられた。やがて作品はクィーンズランドの一流CM監督ディック・マークスの目に留まり、二人はテレビCM監督として起用される。二人が手がけたCMは、コカ・コーラ、ユニバーサルなど大手クライアントを含め60本以上に及んだ。広告業界で働く一方で、二人は短編映画の脚本・監督を続け、ついに2003年『アンデッド』で長編映画監督デビューを果たす。2作目となる『デイブレイカー』(10)では、2度のアカデミー賞®ノミネート経験をもつイーサン・ホーク、ウィレム・デフォー、サム・ニールが出演。国の最高賞であるオーストラリア映画協会賞最優秀視覚効果賞を受賞した。


 ロバート・A・ハインライン (原作) >>>

 >>> Robert Anson Heinlein (Original Author)

1907年7月7日 - 1988年5月8日。「SF界の長老」とも呼ばれた、アメリカのSF作家。他の作家たちがSF雑誌に作品を載せるなか、ハインラインは1940年代からの作品を「サタデー・イブニング・ポスト」などの一般紙に掲載。その結果、SFの大衆化が進んだのは彼の功績の一つである。「宇宙の戦士」(97年映画化・邦題『スターシップ・トゥルーパーズ』)、「ダブル・スター(太陽系帝国の危機)」、「異星の客」「月は無慈悲な夜の女王」でヒューゴー賞(長編小説部門)を計4回受賞。アメリカSFファンタジー作家協会は1回目のグランド・マスター賞をハインラインに授与した。日本ではロマンティックなタイム・トラベル作品「夏への扉」の人気が高い。


 ゲイリー・ハミルトン(製作総指揮) >>>

 >>> Gary Hamilton (Executive Producer)

芸術・エンターテイメント業界において30年を超えるキャリアを持ち、ラッセル・クロウ、ケイト・ブランシェット、バズ・ラーマン、ヒュー・ジャックマン、ヒース・レジャーなどの国際的スーパースターたちがキャリアを踏み出す際に、重要な役割を担った。携わった作品には、2004年度アカデミー賞?最優秀作品賞受賞作『クラッシュ』、『ロード・オブ・ウォー』(05)、2007年度ゴールデングローブ賞最優秀作品賞ノミネート作『ボビー』(06)など多数。


 ベン・ノット,ACS(撮影) >>>

 >>> Ben Nott ACS (Director of Photography)

多数の受賞歴をもつオーストラリアを代表する撮影監督のひとり。06年、08年、および12年にオーストラリア撮影監督協会賞最優秀撮影監督賞を受賞。また、全米撮影監督協会賞にも2度ノミネートされ、08年に受賞を果たした。主な作品として、『Singh Is Kinng』(08)、『デイブレイカー』『Accidents Happen』(共に09)、『トゥモロー 僕たちの国が侵略されたら』(10・未)などがある。またTVでは、自身がプライムタイム・エミー賞にノミネートされた「CIA ザ・カンパニー」(07/リドリー・スコット製作総指揮)も担当。待機作はジョシュ・ハートネット主演『The Lovers』。


 マシュー・プットランド(美術) >>>

 >>> Matthew Putland (Production Designer)

クィーンズランド・カレッジ・オブ・アート(現グリフィン大学)を卒業後、美術デザインにおけるキャリアを踏み出す。美術を担当した映画に『クロコダイル・ダンディーin L.A.』(01)、『スクービー・ドゥー』(02)、『アンデッド』(03)、『蝋人形の館』(05)、『シー・ノー・イーヴル 肉鉤のいけにえ』(06)、『デイブレイカー』(09)、『ナルニア国物語/第3章:アスラン王と魔法の島』(10)など。近作にはイヴァン・セン監督のオーストラリア作品『Mystery Road』(13)がある。


 ウェンディ・コーク(衣装) >>>

 >>> Wendy Cork (Costume Designer)

衣装を担当した作品は、ローズ・ドール賞受賞作『The Eternity Man』(08)、自身がオーストラリア映画協会賞にノミネートされた『THE SILENT WAR 戦場の絆』(10・未)、オーストラリア美術監督組合賞受賞ビデオゲーム「L.A. Noire」(11)、現在、衣装がメルボルン博物館に展示されているTV映画「The Mystery Of A Hansom Cab」(12)などがある。海外を飛び回り、カナダやマレーシアなどの博物館で再現品や3Dディスプレイを手がけるなど、ライブ・映画・TV・3Dゲーム等幅広いメディアで活躍する。


 スティーヴ・ボイル(特殊メイク) >>>

 >>> Steve Boyle (Special Effects Makeup Designer)

『スター・ウォーズ エピソード2/クローンの攻撃』『ゴーストシップ』(共に02) 、『マトリックス リローデッド』(03)などの映画に携わったのち、アカデミー賞?受賞者リチャード・テイラーに自身の力を披露する機会を得て、テイラーからピーター・ジャクソン監督『キング・コング』(05)の仕事を獲得。様々な映画を手がけた後、オーストラリアに帰国しスピエリッグ兄弟の『デイブレイカー』(09)を担当。現在は、クィーンズランドを拠点とし『パニック・マーケット3D』(12)、『シェアハウス・ウィズ・ヴァンパイア』(14)などの特殊メイクを手がける。


 テス・ナトリ(メーキャップ/ヘアメイク) >>>

 >>> Tess Natol (Makeup / Hair Designer)

オーストラリアで最も尊敬を集めるヘア&メーキャップデザイナー。26年を超えるキャリアを築き、国内外で活躍。出版物、CM、ファッションショー、舞台、ミュージックビデオ、TV、映画など、あらゆるメディアの仕事を手がけている。これまでに携わった主な映画に『ケリー・ザ・ギャング』(03・未)、『シャーロットのおくりもの』(06)、『オーストラリア』(08)、『華麗なるギャッツビー』(13)、『デイブレイカー』(09)がある。待機作は『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(15年公開予定)。

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斬新な原作小説に刺激を受けたスピエリッグ兄弟の
これまでにないタイムトラベル映画への挑戦

 ピーター・スピエリッグがSF界の伝説的な作家ロバート・A・ハインラインの有名な短編「輪廻の蛇」を初めて読んだのは何年も前のことだった。タイムトラベルのジャンルに新たなひねりを加えた物語に熱狂したピーターは「こんな斬新なタイムトラベルの話を読んだことはなかったし、今後新たに生まれることもないだろう」と言う。1945年から1993年までの時空を移動する複雑なストーリーと逆説的なテーマはピーターに刺激を与え、いつか映画化すると確信させた。「そしてある日、机に向かって脚本を書き始めたんだ」。
 プロデューサーのパディ・マクドナルドが語る。「これまで読んできた脚本のどれとも似ていないものと出会うことは滅多にない。脚本の練り上げ方と構成に、唯一無二の視点とクオリティがあったんだ」。ピーターと双子のマイケルは「従来の映画の慣例に当てはまらない5つか6つのストーリーを内包するこの作品は、アクション映画、探偵映画であり、とても私的なドラマとしての語り口もある」と本作について語る。次にマクドナルドが説明する。「観る人によって違う映画になるだろう。学術、哲学、神学の要素を取り入れ、それらにさらなる遊びを加えているからね。これまでにない語り口のタイムトラベル映画だ」。さらにロバートソン役のノア・テイラーは「これは先の展開を予想できるような映画ではない。エキサイティングであると同時に、イーサンとサラの演技の素晴らしさがキャラクターの感情、そして時空間を超えたストーリーに感情移入させ、感動をもたらす。エンターテイメントでありながら示唆に富んだ作品だ」と評している。
 撮影現場でのスピエリッグ兄弟は、共同監督として絶大な信頼関係で結ばれ、混乱に陥ることが一切ないという。『デイブレイカー』でも彼らと組んだホークが証言する。「僕が今まで一緒に仕事をしてきた素晴らしい監督たちに何かアドバイスをできるとしたら、それは"双子を持つべきだ"ということだね。素晴らしい大物監督ほど誇大妄想癖に陥り、何でも知っているような気になりがちだ。でもピーターとマイケルの場合は兄弟が常に横にいることで、お互いに注意したり、サポートしあったりできるんだ。それに何より、常に信頼できるベストフレンドが近くにいてくれるって最高だよね」。撮影監督のベン・ノットは「言わばピーターが頭で、マイケルが心だと思う。でも、しょっちゅう入れ替わるから、そうとも言えないんだけど」と付け加える。

双子監督とイーサン・ホークの2度目のタッグ
そして異色の2役を演じきった新進女優サラ・スヌーク

 本作に含まれるパラドックス的なアイデアは、スピエリッグ兄弟にキャスティング上の難しい問題を突きつけた。マイケルは「どうやってまとめるべきか、どの俳優にどの役をどこまで演じさせ、どこでクロスオ-バーさせるか、といった部分にとても多くの時間を割いたよ」と振り返る。
 兄弟は製作の早い段階でイーサン・ホークの起用を思い描いていたが、この引く手あまたの俳優をキャスティングできるかという不安を抱いていた。しかし彼らが感謝祭の休暇中にメールを送ると、わずか一日で「参加する」とホークからの返信があったという。マイケルは「イーサンのメールには"質問はひとつだけ。僕の役は?"と書かれていた。僕らは顔を見合わせて"まだだ。一緒に考えよう"と返答したんだ」と話す。
 マイケルがホークの魅力について語る。「イーサンはとても才能あふれる俳優で、積極的なんだ。脚本にも関わり、意見を述べてくれる。こうやって本当に作品と向き合ってくれると、とてもやりがいがある。彼はただ現場に現れ、セリフを読み上げるだけでなく、積極的に映画に入り込んでくれるんだ」。こうして兄弟はホークがバーテンダー役に最適との結論に至った。脚本を読み、示唆に富んだテーマに引き込まれたホークは次のように語る。「この映画は運命と自由意志の特性について描いている。なぜ僕らは人生で何か起きるたびに、それが避けられない必然であったと受け止めるのか。そして未来のことを想起する際、なぜ何千もの可能性があると考えるのか。そこに本作の面白さのエッセンスがあると思う」。
 続いて兄弟は、ふたつの性とふたつの役にまたがる"未婚の母"をキャスティングする難題に直面した。マイケルは「"未婚の母"の青年とジェーンを男女ふたりの俳優に演じてもらうべきかどうか、何度も推敲したよ。一番面白いのは両方を演じられる俳優を見つけることだったけど、本当にうまくできるか不安だった。失敗すれば映画そのものが台なしになるから」と当時を振り返る。
 やがてプロデューサー陣は、数多くのTVドラマや映画で活躍していたサラ・スヌークに出会った。エージェントから脚本ではなく原作小説を渡され、この企画を知らされたスヌークが語る。「映画の中枢を担う男性と女性を演じ分ける複雑な役柄を得られるチャンスにとても興奮したわ。こんなチャンスは滅多にないから」。プロデューサーのティム・マクガハンが彼女の挑戦を振り返る。「多くの特殊メイクを試した。なるべくシンプルで自然に仕上げながら、ジェーンが"未婚の母"へ変貌する過程の経験を表現したかった」。そしてマクガハンはスヌークの演技に圧倒された。「最も驚かされたのは、サラが"未婚の母"を演じたシーンだ。日々出来上がってくる映像を観るたびに"信じられない"と思ったよ」。
 次に撮影監督のベン・ノットが自らの役割を語る。「美しい女性を男性に変えるのは特殊メイクによる部分が大きいけれど、被写体との角度、照明の仕方に工夫をした。女性パートではハイキーで美しさを前面に出し、男性パートでは暗く、語られざる事情を抱えた様子を表現するようにした。カメラサイドからも影を味方につけて、男性への変貌を担うメーキャップをサポートするように心がけたんだ。でも最終的にはサラ自身が見事にやり遂げたよ」。

細部に至るまで入念な準備を経て行われた
オーストラリア・メルボルンでの撮影

 とても複雑で凝ったテーマと脚本ゆえに、スピエリッグ兄弟はプリ・プロダクション作業が非常に厳しく、シビアなものになると考えていた。ピーターは「映画の撮影行程は非常に貴重な時間だ。だから出来る限りしっかりとした準備をして挑み、現場では計画通り実行することに集中できるよう多くの時間を割いた。映画全体の印象から、細かなディテール、衣装、小道具の隅々までできることはすべてだ。現場入りして手探りなんてしないようにね」と語る。そしてロケ地には、タイムトラベルの要素や多くのエピソードに対応したロケーションが揃っているメルボルンが選ばれ、32日間の撮影が行われた。
 物語が1940年代~1990年代を行き来するため、時代ごとの差別化が必須だった。オーストラリアで最も著名な撮影監督ベン・ノットは、この挑戦を楽しんだ。「時代設定は建築様式やデザインで差別化した。そして時代ごとにカラーを設定し、イメージを画に埋め込んだ。1970年代は銀塩写真のイメージで、1940年代は少し乾いた感じにしたり、美術設定を補完する要素を加え、観客がタイムトラベルを体感できるようにした」。またノットは、本作のフィルムノワール的なテイストも見事に映像に反映させた。「ヴィジュアルも大事だが、ストーリーが特に大切な映画だからフィルムノワールのマナーに則り、かつての名作の深い影の演出を拝借した。なるべく多くの影を取り入れ、そして現代的なアレンジを多く施し、遊び心も加えたんだ」。

約半世紀の時間旅行をヴィジュアルで表現した
プロダクション・デザインと衣装の試み

 スピエリッグ兄弟は大学時代の同級生でもあるマシュー・プットランドをプロダクション・デザイナーに迎えた。プットランドは兄弟の初長編『アンデッド』(03)のデザインも担当しており、彼の映画とテレビ両方での経験が、メルボルンの街並みを1940年代から1990年代のアメリカへと見事に変貌させた。
 衣装デザイナーのウェンディ・コークは、このプロジェクトにとても駆り立てられた。「まずヴィジュアル面に入る前に、パズルを解くところから始まったわ。登場人物、時代、人格、そして性別まで飛び超えていくから、壮大なジグソーパズルを解くような感じだった」。衣装デザインの工程は、キャラクターの設定を分析、定義していく作業を含んだ。複雑な時空間の旅の中でキャラクターがさまざまな方向に分岐していくため、それを反映した衣装と美術を設計する必要があった。コークは「デザイン作業に入る前にキャラクターの解剖作業をたくさんしたわ」と振り返る。
 プットランドとコークは、スピエリッグ兄弟や撮影監督ベン・ノットとともに、各時代のカラーパレットを設定することにした。プットランドは「この映画を難解にする要因に、多くの時代を跨ぐことがある。だから早い段階で時代ごとのカラー設定を検討した。1940年代はドライなグリーンと汚れた感じ。1960年代は清潔感あるブルーを基調にシルバーとピーコック・グリーンでスペースコープ社のモダンなテイストを演出した。1970年代はブラウン、オレンジといったアース系のカラー。そして1980年代と1990年代は、モノクロ基調でタイムレスな感じに仕上げた」と話す。
 物語の柱を担うのは、"未婚の母"がバーテンダーに数奇な生い立ちを打ち明ける1970年代のバーの場面だ。プットランドは「ストーリーの構造を説明する重要な要素はこのシーンに集約した。必然的に画面に映る時間が長いので、このシーンは特に多くのディテールを凝らし、観客を飽きさせないようにした」と説明する。またプットランドは、色味や質感にこだわって空気感を表現した。「バーのテイストは1970年代のカラーパレットでブラウンを多用し、琥珀色のガラスや真鍮の金物にこだわった。バーのエントランスや中央カウンターを含めて360度のセットを造り、地下の事務スペースへの階段のドアまで実際の映画のシーン同様にこしらえたんだ」。
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